<選択肢>
5日目・・・スチル
選択肢無し
舞台は開幕。
脚本家としても、主演男優として評価は上々で・・・・・インターネットのクチコミで連日満員状態。
舞台はいよいよ千秋楽の日。
劇場に着くなり、雅季は真剣な表情で携帯を見てました。
(どうしたんだろう?)
心配しながらその背中を見ていると・・・振り返って。
「○○、ちょっといい?」
「あ・・・はい」
廊下に連れ出され・・・ゴホンと一つ咳払い。
「力を貸して欲しい」
「えっ・・・」
「今日の千秋楽、ヒロイン役として僕と舞台に出て欲しいんだ」
「ええっ!?」
驚いて言葉も出ないでいると・・・両肩に手を置き。
「大丈夫、各部署の責任者にはもう伝えてあるし・・・ 一緒に今まで稽古してきたんだから、心配はいらないよ。それに、僕もついてるしね」
「そんなこと言われても・・・」
困惑しきっていると・・・。
「・・・ヒロイン役のハヤシさん、今朝の飛行機に乗ったって」
「えっ・・・?」
「ギリギリまで迷ってたけど、僕が進めたんだ。彼と一緒に行けって。そうしないと・・・後悔するから」
「そんな・・・」
“マサキくんのお芝居はどうなるの?”
思わず、そう言いかけた時・・・・雅季は穏やかに微笑み。
「それに・・・できたら今日は○○と一緒に、この芝居をやりたかったんだ」
「それって・・・」
“どういう意味?”
聞こうとするも・・・・。
「キミがYESって言ってくれないと、この芝居は千秋楽を迎えられなくなる。・・・どうする?」
「う・・・」
その言葉に頷くしかなく・・・・・。
(どうしよう・・・ あんな大勢のお客さんの前でお芝居するだなんて・・・)
覚悟が決められないまま・・・衣装に着替え、メイク。
緊張していると、そこに雅季が来ます。
肩を優しく抱きしめられ・・・耳元で。
「緊張してるよね? 大丈夫だよ・・・ 僕と一緒だから」
温もりに包まれて・・・胸の鼓動が少しずつ落ち着いていくのを感じます。
(不思議・・・ なんだかすごくリラックスしてきたみたい)
その様子に気づいたのか、そっと体を離すと、優しく微笑み。
「もう大丈夫だね」
「うん」
雅季のフォローもあり、舞台は順調に進み・・・・・いよいよクライマックス!
「・・・最初、僕はキミと出会って心を乱されるようで・・・怖かった」
「王子様・・・」
「でも・・・ 次第に私は気づいたのだ。人を信じなければ、誰からも信じられない。心を開かなければ、心を開かれない。そして・・・」
力強く手を握られ・・・・・。
「そして・・・愛さなければ、愛されないということを」
(えっ・・・? いつもと少し台詞が・・・違う?)
「ずっと怖かったんだ。人を愛し、裏切られることが・・・。でも、キミと出会って知ることができた。人は愛してこそ、初めて愛されるのだということを・・・」
それは役としての台詞ではなく、雅季が自分に本心を伝えてくれているのだと・・・・表情から伝わってきます。
(マサキくん・・・ ありがとう・・・)
抱きしめあい、会場からは拍手。
「・・・愛してる、○○」
「マサキくん・・・」
観客みんなが見つめる中、二人にしか聞こえないほどの小さな声で・・・。
「・・・愛してる」
「今日は、本当にお疲れ様でした」
「マサキくんも、初脚本、初舞台成功おめでとう」
部屋に帰ると、すぐにベッドへ。
「すぐに横になれるから、1ルームの部屋はいいね。ベッドがいつでも、すぐ傍にある」
「マサキくんってば・・・」
ベッドに寝転がっている雅季は、とても柔らかく、優しくて・・・穏やかで。
舞台に臨んでいた時とは、まるで別人のようでした。
思わずその笑顔を見つめていると・・・・・向き直り、悪戯っぽい笑顔で。
「それにしても・・・シングルベッドじゃ小さいね」
「でも・・・いつでもマサキくんの体のどこかしらに触れながら眠れるから、幸せかも」
「○○・・・」
肩をそっと撫でると、思い立ったように立ち上がり・・・冷蔵庫へ。
取り出したのは、冷えたシャンペン。
「・・・ふたりで、乾杯したかったんだ」
「マサキくん・・・」
「・・たまには、いいでしょ? こうして・・・ベッドに腰掛けながら飲むのも」
コクリと頷き。
「じゃあ、ふたりだけで打ち上げだね」
チン・・・「乾杯」
「乾杯」
一気にシャンペンを飲むと、大きく息をつき。
「今・・・もしかしたら俺は世界中で一番幸せかもしれない」
「マサキくん・・・」
ベッドの上で指と指を絡めあい・・・。
舞台を無事に終えた晴れやかな気持ちからか、少しのアルコールでなんとも言えない、幸せな・・・甘い気持ちに。
「・・・ステージ上での○○は 僕が知ってる○○じゃないみたいだった」
「マサキくんだって・・・」
「・・・千秋楽をふたりで迎えられて、本当によかった」
「・・・どうなるかと思ったけどね」
クスッと笑い。
「僕は・・・ ○○なら大丈夫だって、信じてたよ」
「マサキくん・・・」
と、ここで玄関のベルが鳴ります。
「ちょっと待ってて」
雅季は玄関へ。
『ダブルベッドをお持ちしました』
「え・・・ええっ!?」
びっくりして玄関に見に行くと、大きな荷物が届けられたところでした。
「どちらに置きましょうか?」
「えっと・・・とりあえずこちらへ」
部屋に誘導するも・・・。
「・・・ダブルベッド!?」
突然のことにすっかり驚いてしまい・・・。
「・・・内緒にしててごめん、実はこっそり注文してたんだ。こんなに早く届くなんて予想外だったけどね。まあ、大丈夫でしょ。すぐにシングルベッドはどける予定だし」
「それでは、失礼します」
「ありがとうございました」
男性はベッドを組み立て、帰って行きます。
部屋にはシングルベッドと並んで、ダブルベッド。
部屋はきゅうきゅうで・・・・・・。
「・・・」
「・・・」
思わず、顔を見合わせてクスクス笑い出します。
「・・・この狭い部屋に、二つもベッドを置いたら狭くもなるよね」
「でも・・・」
「・・・?」
「でも・・・ すっごく嬉しい。ありがとう」
「○○・・・」
頬を赤く染めながら、手を取り・・・・・・。
二人は思わずはしゃぎながらダブルベッドへ!
「すごいね、ふかふか」
「これくらい広ければ、○○もベッドから落ちたりしないでしょ?」
「・・・そんなに私、ベッドから落ちたりしてないもん」
「それは僕が夜中に直してあげてるからね」
「・・・!」
「これは意地悪じゃなくて、本当のことだよ?」
クスクス笑いながら、見つめられます。
「・・・ありがとう」
「どういたしまして」
恥ずかしさもあって、少しむくれながら雅季を見つめていると・・・。
「・・・そんな顔、しないでよ? せっかくのかわいい顔がだいなし」
「・・・!」
「○○・・・ かわいい」
「マサキくん・・・」
綺麗な瞳であまりにまっすぐに見つめられ・・・・。
恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになり、思わずごろりと寝返りを打ちます。
「・・・随分広くなったね。でも・・・マサキくんが遠くなっちゃった」
照れ隠しに言うと、背中ごと抱きしめられ・・・!
「・・・今日までは、シングルベッドで寝ようか?」
「えっ・・・?」
思わず顔を上げると・・・雅季も頬を赤くしながら、見つめてました。
「うん・・・」
二人は、そのままシングルベッドへ。
部屋の中にベッドが二つ・・・。
片方はダブルなのに、こうしてシングルベッドに二人がいるなんて・・・。
やはり、おかしくて幸せで笑いがなかなか止まりません。
雅季は、まったく・・・というちょっと呆れた表情で見ていて・・・・・。
「・・・!」
突然、肩を押さえられ・・・キス!
びっくりして固まっていると、嬉しそうに何度もキスをされます。
「・・・いつまで笑ってるつもり? まあ、そんな○○も好きだけどね」
少し強引なキスに、思わず顔が赤く・・・。
「・・・ベッドがどんなに大きくても こうしてしまえばなんでもないし ○○と僕のもので部屋が狭くなるのは、なんだか幸せだ」
「マサキくん・・・」
「・・・本当に、そう思うんだ」
耳元に唇を近づけ・・・・・。
「・・・愛してる」
「私も・・・」
「私も?」
「えっと・・・ その・・・・・・ 私も」
「ん?」
「私も・・・ 愛してる」
「・・・よろしい」
「もう・・・ マサキくんの意地悪」
「○○が悪いんだよ? こんなに・・・・・・可愛いんだから」
首筋にキス♪
「う・・・ ん」
「・・・かわいい」
「マサキくん・・・」
「・・・このっま、こんな時が永遠に流れればいい」
「・・・」
「こんなにも・・・ 幸せな時間が」
初脚本、初主演の舞台、そして・・・始まったばかりの私との暮らし。
きっと・・・マサキくんにとってもめまぐるしい日々だったに違いない。
それが今、ようやく・・・穏やかな時の流れに身を任せることができるようになったんだ。
「・・・マサキくん」
「・・・ありがとう」
「・・・?」
「二人で暮らすことも・・・ 舞台のことも、いつも僕の・・・わがままを聞いてくれて」
「・・・」
「一緒に暮らしてみて、○○の大切さを改めて感じたよ。僕にとってどれほど大切で・・・いとおしい存在なのか、ということ。初舞台でどんなに気持ち的に張り詰めていても ○○の顔を見ただけでほっとできたし、頑張ろうとも思えたんだ」
「マサキくん・・・」
「・・・ありがとう。舞台が成功できたのは、○○のおかげだ」
「私はなにも・・・」
「なにもしてないと思う?」
「えっ・・・」
「だとしたら、それはひどい誤解だ」
「・・・何か力になれていたとしたら、すごく幸せだと思う」
ふっと微笑み。
「○○は・・・本当に素敵な子だね。優しくて・・・ 奥ゆかしくて、そして、いつでも僕を包み込んでくれる・・・。ありがとう」
「・・・愛してる」
「愛してる・・・」
私は・・・この愛しい人を、永遠に守りたいと。
いつまでも優しく包んであげたいと思わずにはいられなかった。
二人ののせたシングルベッドが、小さくきしむ。
その幸せな音を聴きながら・・・私たちはいつまでも、いつまでも、愛し合ったのだった。
グトエンかも・・・と心配したけど、ハピエンでした^^
前話で将来の話が出たから、最終話でその話はナシ。
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